「裏舞台」「演出された真正性」「performative authenticity」

観光社会学、それは観光実務を行うものにとって、全く役に立たない学問として位置づけられている。

欧米で書かれた50年以上前の論文をひっぱってきて、小難しい論を実務者に話したところで、「で、それマネタイズできるの?」と一蹴されるだけである。

私は、観光実学に身をおいていたわけではなく、どちらかといえば、人文学寄りのいわゆる「お金にならない観光学」をやっていた側の人である。

しかし、現状の社会システム下で生きていかなきゃいけない以上、「お金になる観光」への方針転換を余儀なくされた。

そのため現在では、地域資源の掘り起こしや観光商品造成に、真剣に取り組む毎日である。それをやる中で今更ながら(?)気づいたことがある。

実務者にはバカにされるが、観光社会学では鍵概念として重宝されている、表題に掲げた3つの概念は、着地型体験旅行商品を造成しようとする際に、非常に生きてくる、ということだ。

着地型旅行商品を造成する際に重視されていることは、(少なくとも私の乏しい経験の中からいうと)、普段できないことの体験にどこまでアプローチできるか、である。

改めて言うまでもない至極当然のことだが、前述の3つの概念と絡めつつ、深堀するのが本記事のねらいである。

観光客が求めるものを提供する(ホンモノを提供する)

マキャーネルによれば、観光客は、上っ面の部分(=表舞台、ブーアスティンがいうところの「疑似イベント」に相当と考えられるか)をみて満足するのではなく、むしろその裏側を(=裏舞台)見たがっているという。

そこに「ホンモノ」があると信じられているからだ。

観光業者は、裏側にある「ホンモノ」を演出する。これが演出された真正性(staged authenticity)である。

旅行商品造成はニーズにあわせて作ることが肝要だが、「ホンモノをみたい」というニーズ、言い換えれば、願いを叶えてあげられることが、良い商品といえそうである。

おらが町の良いところを見てほしいという、押しつけがましい商品はニーズにあわない。(=アトキンソンは滝川クリステルによる「おもてなし」演説が五輪招致の成功要因だと認識する日本世論を痛切に批判する)。

このマキャーネルの指摘は、商品造成の基本的考え方を示すものとしても捉えることができる。

特に、一級観光地でなくても、観光振興に取り組む地域が多い現代においては、この考えはより一層重要になろう。

つまり、一級でないからこそ、戦略的に観光商品を作らないとやっていけないので、真正性を多く含有する裏舞台へアクセスできる商品を意図して作りあげる必要がある。

マキャーネルは、普段立ち入ることができないNASA内部に立ち入ることで、観光客は「ホンモノ」に触れていると感じる例を用いて説明する。

この説明は、産業観光タイプの商品を造成するうえで示唆に富む。たとえば、観光地化されていない町工場の中や、空港の内側、鉄道輸送を支えるインフラ施設などにアクセスできる商品は、真正性を多く含有する裏舞台へのアクセスを実現するという意味で、「良い商品」だといえるだろう。

performative authenticity

昨今、体験型旅行商品の開発が盛んにおこなわれている。この理由もauthenticity論からある程度説明することができる。

performative authenticityは、観光客が身体を動かしたりしているうちに、よくわかんないけど「ホンモノ」だと認識しちゃうことをいう。

こういったことについての研究は、デュルケムまでさかのぼる。

デュルケムによれば、人々は儀礼という「身体行為」が「聖なる時間」を認識する重要なファクターであるというが、まさにperformanceが、「オレ、今、聖なるホンモノの時間の中にいるんだ」と錯覚しちゃう要因になっているわけだ。

身体を伴って、観光をする。すると、ホンモノだと感じてしまう。

だから体験型観光は重要なのだ(ちなみに、それを大人数で、かつ定期的に行うと、祭になる)。

最後に

コロナ禍に行われたオンライン忘年会にて、実務に役立つ観光学しか求められない世の中において、人文学的な知はどのように活かしていけるのだろうか、という議論になり、それに触発されて本記事への執筆へとつながった。

「お金を作る観光学」と「お金にならない観光学」、それぞれに従事する人々の相互交流を少しでも促進できればこの上ない幸せである。

※この記事は妄想を多分に含んでおります。引用作法もしっかりやってません。自分の書きたいことを書いた結果がこれです。なので間違ってる可能性も全然あります。

参考文献

アトキンソン(2015)『新・観光立国論』東洋経済新報社
デュルケム 『宗教生活の原初形態』
マキャーネル(2012)『ザ・ツーリスト』学文社
池田光穂 「演出された真正性について」
Yujie Zhu, 2012, performing heritage: rethinking authenticity in tourism, Annals of Tourism Research